『新兵庫人輝く』―第11部―女たちの仕事場
神戸新聞、2月15日(日曜日)

 

100年以上の歴史を持つ高級小麦粉メーカー、増田製粉所(神戸市長田区)堀井美千代(68)には入社以来、「女性初の」という言葉がついて回る。 主に経理畑を歩んで来た。経理課長、総務部次長などを経て、02年から取締役総務部長を務める。自身を「天真らんまん」と評する。意外にも「ほんの腰掛のつもり」で就職した。

徳島県出身。高校卒業後、地元で数年間の会社勤めをして結婚し、神戸に移った。25歳のとき、職業安定所で見つけた事務員の臨時募集に応じた。面接で「子どもができたら辞めます」というと、「いいですよ」。それが今の会社だった。

入ってみると、経理の面白さに夢中になった。売掛金や借入金、減価償却・・・。帳簿を通して会社の動きがつぶさに見えた。仕事は盗んで覚えろという時代。同僚の仕事を進んで手伝い、帰宅後も本で勉強した。「子どもがいないので、辞められないよね?」と重要な仕事を任されるようになった。

40代で管理職になり、人を動かす難しさに直面した。プイと横を向く部下もいた。 1年ほど悩み抜き、ある日突然吹っ切れた。「相手の立場になって考え、引くことが大事」。部下が頼ってきたときに即応できるよう、経理の力に磨きをかけた。自分が変わると部下も次第に変わった。

企業の中で女性が増えているとはいえ、管理職はまだまだ少ない。パイオニアとして、ほかの会社の女性からも相談を受けることがある。 「男の人の心のどこかに『男性優位』という感覚を持ち続けていると思う。それを頭の片隅に置きつつ、したたかに、しなやかに生きていきましょうよ」。後に続く女性たちへのエールである。


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